【特別区】論文対策「児童虐待テーマ」への対処法

今年の特別区の論文試験について、私が把握している限り、いくつかの予備校では「児童虐待がテーマになるかもしれないぞ!」と予測をしているようです。

なぜ、そのように予測しているかというと、おおむね以下の3つの理由があるからでしょう。

【各予備校が「児童虐待」を予想する理由】

・全国的にも児童虐待事案が増えている(大きな社会問題!)

・2019年に児童虐待防止法と児童福祉法が改正され、2020年4月から施行される(新しい時事トピック!)

・2020年4月から、江戸川区・荒川区・世田谷区で児童相談所が開設される(特別区にも大きく関わる話題!)

私としては、「児童虐待」への対応に関する基礎自治体の権限がせまく、論文でも書けることが限られているため、教養論文としての出題可能性は低いのではないかと思っています。

実際、ここ数年で「児童虐待対策」をピンポイントで出題した都道府県や政令市などを私は知りません。※もしあったら、TwitterのDM等で教えてもらえると助かります

一方、各予備校でも予測を掲げて対策をしているところですので、もし出題された場合には、独学の方などは無対策だと大きな打撃を受けることになるでしょう。

そこで、今回は、「児童虐待」を論じる上での「基礎知識」について書いていきたいと思います。

いきなり具体的な政策やデータを把握するよりも、まずは大きな流れや基礎知識を身につけておくことが大切です。

特に、面接などでも「子育て支援をやりたいです!」と話す予定のある方は、しっかりと把握しておいてください。

なぜ特別区でも「児童相談所」を開設できるようになったのか(制度的背景)

 

これまで、児童相談所の設置については、都道府県や政令指定都市には設置義務があり、中核市は希望すれば設置が可能という状況でした。

しかし、平成28年の児童福祉法の改正により、平成29年4月から特別区も児童相談所を設置できるようになりました(義務ではない)

なぜ特別区では、22区が児童相談所の設置を進めているのか

今後、特別区では、練馬区を除く22区で児童相談所が続々と設置されていく予定です(江戸川区・荒川区・世田谷区は2020年4月から運営を開始)

東京都の児童相談所に任せておくという選択肢もあった中、なぜ各区では自分たちで児童相談所を設置しようとしているのでしょうか

その理由は、大きく以下の3点が挙げられます。

【各区が児童相談所を設置する理由】

・基礎自治体が児童相談所を運営することで、都道府県が運営する児童相談所よりも住民に身近な相談窓口となり得る

・児童相談所が住民に身近な区職員によって運営されることによって、問題対応への迅速性が上がり、問題対応へのワンストップ化などが図られるなど、住民の利便性が向上する

・ 妊娠期から子育て期、子どもの就学や自立まで一貫した切れ目のない支援が可能となる

練馬区が児童相談所を設置しない理由

なぜ練馬区が児童相談所を設置しないのかについては、「東京都と連携して広域的に取り組むべき」という判断があるようです。

練馬区で開催された「平成30年度第3回子ども・子育て会議」の会議録では、事務局(職員)から「児童相談所については、広域性が非常に高いものであるという認識で、この連携をさらに強化していくことが練馬モデルの主眼です」という答弁がありました。

現在の練馬区長は、もともとは東京都職員であり福祉局長でもあった方ですので、現在の東京都が運営する体制を真っ向から批判しにくかった、もしくは純粋に「東京都が児童相談所を運営する体制のほうがGOOD!」と思ったのかもしれません(これは完全に憶測です)。

いずれにせよ、練馬区では独自の取組を掲げており、2020年7月には「子ども家庭支援センター」を本庁舎から近くのビルに移転し、「区虐待対応拠点」を新設することを発表しました。

「区虐待対応拠点」には東京都の児童相談所の職員が週に1回以上滞在し、虐待に関する相談に加えて、調査や援助、広域調整などに当たる予定となっています。

「子ども家庭支援センター」と「児童相談所」の違い

さきほどの練馬区の話題で「子ども家庭支援センター」という言葉がありましたが、児童虐待を考えるときに、「子ども家庭支援センター」と「児童相談所」の違いを把握しておくことが大切です。

以下にまとめておきましたので、その違いをうっすらとでも理解しておきましょう。

●子ども家庭支援センターの概要
設置:区市町村が設置する
役割:
①子どもや家庭からの相談への対応を行う
②地域の子育て支援活動を推進する
主な業務内容:
①子供や保護者などからの相談への対応(虐待、DV、育児の悩みなど)
②子育て支援に関するサービスの受付や提供
(乳幼児の一時預かり、育児ヘルパーの派遣、ファミリーサポートセンターの運営など)
③住民から虐待通告があった際の初動調査
④児童相談所への引継ぎ
体制:
①区市町村の職員が配属されている。保健師や社会福祉士が配置されていることもあるが、事務職採用の職員も配属されることがあるため、専門性の確保には課題がある
②自治体によっては、センターの運営をまるごと民間企業に委託しているところもある
※あくまで、児童虐待への対応は、センターが取り組む業務の一部でしかない。
●児童相談所の概要
設置:都道府県と政令指定都市(希望すれば中核市も設置可能)
役割:
①18歳未満の子どもに関する相談を受け付ける
②相談や各種事案に対し、専門的な立場から知識や援助等を行う
③区市町村間の連絡調整、区市町村への情報提供
主な業務内容:
①相談対応(虐待、育児の悩み、子どもの障害、非行問題など)
②養育環境の調査や専門的診断により、子どもや家庭への援助内容を決定
③子どもの一時保護
④里親制度の推進(里親への養育の委託など)
⑤子ども家庭支援センターでは対応できない事案への対応
体制:
児童福祉士、児童心理士、精神科医、弁護士など専門スタッフが対応する。自治体によっては、虐待事案等に対応するため、警察官OBなどを配置しているところもある。
※児童相談所には、立入調査や一時保護等の権限の行使が認められている(子ども家庭支援センターにはない)
※虐待を通報する電話番号「189」は、子ども家庭支援センターではなく、児童相談所のほうに連絡が入る。

以上が両施設の大きな違いとなります。

このような役割や権限の違いあるため、各区では児童相談所を自身で設置・運営していくこととしました。

つまり両者の違いをざっくりまとめると、

 「子ども家庭支援センター」は区市町村に設置されており、「児童相談所」は都道府県や政令指定都都市に設置が義務づけられている。
 簡易な児童虐待事案には「子ども家庭支援センター」が対応するが、重篤なケースや性的虐待のケースなど専門的な判断が求められる場合には「児童相談所」が対応する。
3 児童虐待を通報する電話番号「189」は児童相談所が受け取り、児童相談所には立入調査や一時保護などの権限がある(子ども家庭支援センターにはない)。

このように、「子ども家庭支援センター」と「児童相談所」にはそれぞれの役割分担があります。

それでは、この2つの組織があることで、実際の現場ではどういった問題が生じているのか見ていきましょう。

(1)役割分担が不明確

両者においては、一定の役割分担がありますが、役割分担が不明確なところもあります。

「重篤なケース」は児童相談所が担当といっても、どこからが重篤なケースかは現場で判断するしかありません。

このため、子ども家庭支援センターのほうで「これは児童相談所の担当だろう」と思っても、児童相談所では「これはうちの担当ではない」と判断することもあるのです。

実際に、どちらが担当するかをめぐっては両者の職員が集まって会議を行ったときなどには、どちらが担当なのか(これはうちの担当ではない)ということをめぐって議論が紛糾することもあります

また、連携して対処する事案においても「どちらが主体となって取り組むのか(自分たちが主体にはなりたくない)」をめぐって争うこともあります。

こうして、一部の現場では双方に不信感が生まれているのです。

(2)担当職員が不足

では、なぜ役割分担(主体の決定)をめぐって対立が起こるかというと、統一的な明確な基準がないからということもありますが、それだけではありません。

大きな理由として、担当する職員が不足していて現場が忙しいからというものです。

国では、児童福祉司一人当たりの相談件数を40件程度とすることを指針としていますが、1人で担当する案件が100件を超えている児童相談所もめずらしくありません。

職員として1つ1つの仕事に対応しなければならないのは当然であったとしても、1人で100件以上の案件を担当していると、これ以上は増やしたくないと思うのも自然な感情かもしれません。

また、児童相談所には「48時間ルール」というものがあります。

48時間ルールとは、「通報を受けてから48時間以内に子どもの安全を確認する」というものです。

しかしながら、2019年6月に札幌で起きた2歳児の虐待死事件では、この48時間ルールが守られていなかったことが判明しました。

国が、東京都目黒区での虐待死事件を受けて48時間ルールの徹底を全国の児童相談所に求めていたにも関わらず、実際の現場ではそれができていませんでした。

これを職員の怠慢と批判することも可能ですが、その背景には慢性的な人手不足によって業務過多が発生しているということが挙げられます。

(3)認識の食い違い(対応への温度差)

子ども家庭支援センターと児童相談所では、虐待事案への対応方針をめぐって食い違いや対立が生まれることがあります

例えば、児童相談所が一時保護した子どもを家庭に戻したことに対して、子ども家庭支援センターでは「あんな危険なケースなのに、保護を解除するのはおかしいのではないか!」といった事案があります。

また、虐待家庭への児童相談所の対応に対して、子ども家庭支援センターが「そのやり方は保護者と我々が築いてきた良好な関係を壊すことになるのでやめてほしい」と判断しても、児童相談所のほうからは「それは単に相手の親に嫌われたくないだけではないのか。こちらの対応に協力してほしい」と対立することもあります。

このように、虐待対応の現場では、両者が対応や方針をめぐって対立することがたびたび発生します。

(4)子ども家庭支援センターにおける職員の経験不足

子ども家庭支援センターが抱えている課題としては、「勤務する職員の経験不足」があります。

子ども家庭支援センターには保健師や社会福祉士、児童福祉司などの資格を保有する職員が配置されますが、全員ではありません。

事務職で採用された職員も配属されます。

つまり、まったく専門性のない職員が配属後にゼロから制度や対応方法を学ぶことになるのです。

育成のために児童相談所に研修派遣することもありますが、せっかく学んで経験を得ても、組織のジョブローテーション(人事異動)によって2~3年で他の部署に異動となってしまうこともあります。

さらに言えば、「児童福祉司」というのも一定の条件を満たせば認定される資格であり、国家資格ではありません

国の統計では、「児童福祉司の45%が3年未満の勤務経験しかない」と発表されていました。

このため、経験やノウハウが蓄積されず、専門性を高めた職員が育成されないといった問題が生じています。

このような問題を解決し、専門性と迅速性を持った対応を行うため、各区では自前で児童相談所を持とうとしているのです。

※なお、新宿区では児童相談所の設置を3年以上延期することを決定しましたが、これは「経験豊富な児童福祉士を確保できない」ことが理由となっています

(5)各区に児童相談所を設置した後の課題

①専門職員の確保と育成

これまで東京都の児童相談所に任せてきた部分も今後は区が自身で対応することになるため、多様な専門職員を確保・育成していく必要があります。

②一時保護における特別区間での連携

子どもを一時保護した場合には、区内の保護施設(一時保護所)に受け入れられることになりまが、収容定員を超えてしまっており受け入れができない場合もあります。

現在も一時保護施設は慢性的にキャパを超えている状態であり、平成29年度のデータでは、東京都の平均入所率が109%となっています。

このため、特別区間で相互に利用できる協定などを結び、適切に一時保護できる体制を整備しておくことが必要になります。

③区民への分かりやすい説明と周知

今後は区が「児童相談所」と「子ども家庭支援センター」の2つを運営していくことになります。

窓口が2つになると「どっちに通報したらよいのか」、「どの番号に電話したらいいのか」といった混乱や戸惑いが生まれますので、区民に対して分かりやすい説明と十分な周知をしていくことが求められます。

(6)児童相談所の設置後に各区に期待されること

同一判断・同一基準に基づく初動対応

今後は、区が、子ども家庭支援センターと児童相談の両方を運営していくことになります。

双方を区が運営していくメリットを活かし、明確な役割分担を行い、同一判断・同一基準によって初動対応を行い、迅速に虐待事案に対応していくことが期待されます

児童相談所の負担軽減

世田谷区では、虐待への初動対応は原則として子ども家庭支援センターが行うこととしています。

これにより、児童相談所の負担が軽減され、児童相談所がより重篤なケースや高い専門性が求められる事案に専念できることが期待されます

切れ目のない子育て支援体制の構築

子ども家庭支援センターと児童相談所の円滑な連携によって、家庭や子どもが抱える問題に対して迅速に切れ目なく対応することが求められます。

世田谷区では、NPOや各種ボランティアなども含めた「地域全体で子育てや家庭を支える街」を目指すことを掲げています。

以上が、児童虐待をめぐる現状の問題点や各区の今後の課題となります。

皆さまの論文対策や面接対策の参考として活用してください。